VOCA賞 尾花 賢一
「上野山コスモロジー」
インク・ワトソン紙、木枠
250×400×20cm
VOCA奨励賞 鄭 梨愛
「Vision」
布に昇華転写、フック・ステンレスパイプ・木材
148.3×318.4×20cm
VOCA奨励賞 水戸部 七絵
「Picture Diary 20200910」「Picture Diary 20200904」
油彩、麻布・木製パネル
250×200×15cm・250×200×10cm
VOCA佳作賞・大原美術館賞 岡本 秀
「複数の真理とその二次的な利用」
紙本着色、額に写真をマウント
180×354×3.5cm
VOCA佳作賞 弓指 寛治
「鍬の戦士と鉄の巨人」
アクリル ・鉛筆・ペン・新聞紙、木製パネル
249×399×4cm
新型コロナ感染症の世界的な蔓延という、未曽有の事態の中での新作を集めたVOCA展2021だが、直接的にその体験を主題にしたものはない。しかしVOCA賞の尾山賢一は、明治以後、美術館・博物館の集中することになった上野の山の歴史的トピックを、漫画の手法でダイナミックに回顧し、奨励賞の鄭梨愛は在日の家族の日常の場面を、転写した薄い布の重なりで重層的に浮かび上がらせた。社会の歴史と個人の日常はつながり合い、溶け合う。コロナ禍での隔離された日常の中で、若手の作家たちは人間と社会の歴史に向き合っているとも言えよう。
パン(すべて)のデモス(人々)を巻き込む「危機」に境界はないはずである。しかし、結果的に、対立と分断は、深まるばかりであり、それぞれの地域の問題点や弱点がますます露わになった。
「危機」。それは、じつは芸術の本質と重なる部分がある。ただ、必ずしも直接的な批判とはならないことも多い。
今回VOCA賞の尾花賢一《上野山コスモロジー》は、記憶の断片に沈潜する。細部に執着する。劇画風の鮮明さで。鄭 梨愛《Vision》は世代をつなぐ記憶を喚起する。ヴェールの柔らかさに何重にも包むように。水戸部七絵《Picture Diary 20200910》《Picture Diary 20200904》は差別をテーマにしている。しかし分厚い絵の具に塗り込めて。
それらは「すべての人々」に関わる普遍的なテーマを秘めている。そのためには迂回路もときに必要なのだ。
VOCA賞の尾花賢一は、木枠、額縁、同展会場となる上野の山の歴史を劇画調に描いた絵画を大小綯交ぜに構成・配置することによって、鑑者の視線をでこぼこと入り組ませ、史実と妄想が判然としない世界に引き込むものであった。奨励賞の水戸部七絵の人物像は、粘土と見紛うほどの絵具の量感と美しさ、荒々しいストロークによって、圧倒的な存在感と輝きを放つ作品ではあると同時に、背景に判読しにくく文字を記すことによって、その人物像のイメージをゆらがしていた。今年の受賞作品は、そのいずれもが、実際に作品の前にたち、細部にわたってじっくりと読み解く楽しさを再認させてくれるものであった。
絵画で、あるいはより広く、アートで何を表すことができるのか。今回受賞した人たちに共通するのは、表現せずにはいられない、その人が描く必然性ではないだろうか。アーティストがいま、世界のどこを見て、何を考え、伝えようとしているのか。そのヴィジョンを私は見たい。粗さや未熟さがあったとしても、アーティストの思いと問題意識が伝わる作品が見る人の共感を呼ぶのだと思う。今回の受賞をステップに、さらなる飛躍を期待している。
新型コロナウイルスのパンデミックによって、未来が見えず、現在を模索するような状況が続いている。大勢の人がいる映像を見ると、これは過去の映像だといつのまにか判断する自分に嫌気がさす。コロナウイルスは「現在」をことさら意識させているように感じてきた。VOCA賞の尾花賢一や佳作賞の弓指寛治など、歴史や過去を扱った作品がとくに印象に残ったのは、そんなことが影響しているのかどうか。選考会の後ずっと気になっている。
「VOCA展2021」の推薦委員・出品作家が下記のように決定しました。
(敬称略)
作家名 | 推薦者名 | ||
---|---|---|---|
a/morphous (大西 正一・竹内 秀典) |
岡本 梓 | 伊丹市立美術館 | 学芸員 |
青原 恒沙子 | 竹口 浩司 | 広島市現代美術館 | 学芸担当課長 |
今井 麗 | 坂元 暁美 | 上野の森美術館 | 学芸課長 |
榎倉 冴香 | 神山 亮子 | 府中市美術館 | 学芸員 |
岡本 秀 | 中村 史子 | 愛知県美術館 | 学芸員 |
尾花 賢一 | 今井 朋 | アーツ前橋 | 学芸員 |
加藤 真史 | 畑井 恵 | 千葉市美術館 | 学芸員 |
桑原 理早 | 小金沢 智 | 東北芸術工科大学 | 専任講師 |
児玉 知己 | 岸本 和明 | 奈義町現代美術館 | 館長 |
衣 真一郎 | 野村 しのぶ | 東京オペラシティ アートギャラリー | シニア・キュレーター |
佐直 麻里子 | 尺戸 智佳子 | 黒部市美術館 | 学芸員 |
設楽 陸 | 高橋 綾子 | 名古屋造形大学 | 教授 |
春原 直人 | 木内 真由美 | 長野県信濃美術館 | 企画・交流係長/主査学芸員 |
髙田 彩 | ビルド・フルーガス | 代表 | |
武田 竜真 | 立花 由美子 | 金沢21世紀美術館 | アシスタント・キュレーター |
鄭 梨愛 | 趙 純恵 | 福岡アジア美術館 | 学芸員 |
長田 綾美 | 国枝 かつら | 京都市京セラ美術館 | 学芸員 |
永田 康祐 | 山峰 潤也 | 東京アートアクセラレーション | キュレーター |
永畑 智大 | 小川 希 | Art Center Ongoing | 代表 |
西田 卓司 | 穂積 利明 | 北海道立近代美術館 | 主任学芸員 |
仁添 まりな | 上間 かな恵 | 佐喜眞美術館 | 学芸員 |
藤田 道子 | 藤川 悠 | 茅ヶ崎市美術館 | 学芸員 |
松本 寛庸 | 真武 真喜子 | Operation Table | インディペンデント・キュレーター |
水戸部 七絵 | 鎮西 芳美 | 東京都現代美術館 | 学芸員 |
盛 圭太 | 慶野 結香 | 青森公立大学 国際芸術センター青森 | 学芸員 |
八木 佑介 | 牧野 裕二 | 高松市美術館 | 学芸員 |
薬師川 千晴 | 福元 崇志 | 国立国際美術館 | 主任研究員 |
山谷 佑介 | 伊藤 貴弘 | 東京都写真美術館 | 学芸員 |
山本 聖子 | 楠本 智郎 | つなぎ美術館 | 主幹・学芸員 |
弓指 寛治 | 井関 悠 | 水戸芸術館 現代美術センター | 学芸員 |
吉國 元 | 岡村 幸宣 | 原爆の図 丸木美術館 | 学芸員 |
VOCA展では全国の美術館学芸員、ジャーナリスト、研究者などに40才以下の若手作家の推薦を依頼し、その作家が平面作品の新作を出品するという方式により、全国各地から未知の優れた才能を紹介していきます。
日時:3月12日(金)~30日(火)10:00~17:00
場所:上野の森美術館ギャラリー
上野の森美術館の別館ギャラリーでは、VOCA展の会期に合わせ、同展覧会にゆかりのある作家の小企画展を開催
今年も-東京オペラの森2021—のプログラムとして、VOCA展展示室内で行うミュージアム・コンサートを開催する予定です。 現代美術の展示される会場で聴く現代音楽は普段では味わえない格別な時間をお届けいたします。
※チケットのご購入等、詳しくは音楽祭の公式HPをご参照ください。
場所:東京都千代田区有楽町1-13-1 第一生命保険株式会社 日比谷本社1F
第一生命が所蔵するVOCA作家の受賞作品や、近作・新作を展示しています。
展覧会名 | 会期 |
---|---|
「TOKYO☆VOCA Ⅱ」 |
2021年3月1日(月)~12月30日(木)8:00〜20:00 第一生命ロビー ※無休 |
展示作家:石田徹也、伊庭靖子、大岩オスカール幸男、大小島真木、押江千衣子、尾花 賢一、樫木知子、柏原由佳、菅実花、小池隆英、佐伯洋江、杉戸洋、曽谷朝絵、津上みゆき、東城信之介、Nerhol、東島毅、平子雄一、藤井俊治、フジイフランソワ、やなぎみわ、湯川 雅紀(予定)
VOCA2012でVOCA佳作賞・大原美術館賞を受賞した柏原由佳さんの個展を開催します。
2021年3月5日(金)~4月9日(金) 8:00〜20:00