VOCA展は、今年もまた有力な作家を何人か世に送り出した。全体の水準はほぼ例年なみという印象だが、受賞作品はいずれも力作で、容易に甲乙つけ難い出来栄えを見せた。サテンの布地に多色の染料という特異な技法を用いた横内賢太郎作品は、光の具合いや見る人の位置によって微妙に変化するイメージのゆらぎを確かな造形感覚でつなぎとめた舞台劇のような秀作である。笹岡啓子の組写真は、主題の平凡さにもかかわらず張りつめた緊張感と気品に満ちた構成感覚で日常性を越えた高い格調を示し、熟達した技量を見せる川上幸之介は冷え冷えとした静寂な風景で見る者を虜にする。佳作賞を得た伊藤雅恵の華やいだ絵画表現も、藤原裕策の錯綜するイメージも、今回の収穫である。
今回は絵画への共感をどこに求めるか― という興味でみました。けっこうそれぞれ創意工夫があって面白かったのですが、少々、技巧的なところにとどまっていたのが気になりました。特別に、まあたらしさを感じる作品はなかったのですが、それでも二、三、才能のきざしを感じされてくれる作品があったのは救いです。
賞の選定の判断は極めて難しく、事実、審査員の意見が分れ、なかなか結論に到達しなかった。VOCA賞の横内賢太郎はユニークな技法ながらも、堅実な画面を生み出していた。川上幸之介の作品の深いポエジーを宿した空間にも大いに惹かれる。受賞作も含めて、広い意味での具象作品が多く見られたのは、時代の傾向の直接的な反映だろう。それらの主題性が広い意味での多義性をはらんでいるように思われるところも興味深い。
昨年と比べると質の高い作品が揃ったと思うが、きわめつきのグランプリ候補がなかったのは残念。陰影もしくは移ろいを強調したものがいつになく多いように感じられるのは先行きが明るいようで実は暗い時代の気配かもしれない。画面全体が半透明に錯綜したベールのようにも見えるグランプリ作品にある種の現実味を感じたのはそのせいかもしれない。
今回初めて賞の選考に参加したが、VOCA展の傾向ともいえる抽象画に加え、今年は叙情性が表出されている具象表現や緻密な手技の痕跡がある抽象表現に特色があったように思う。選考過程では、かなりの意見がわかれたが、最終的には、20代の横内賢太郎さんが大賞を受賞した。サテン地に染料という手法による線描と色面の構成がユニークであり、平面表現の枠組みの拡がりを感じさせた。
同一の作品でありながら、それが「明るい」のか、「暗い」のか、あるいはそれが反語的な光の所産としての平面なのか。換言すれば、時代の「明暗」を問いかけられることになった、厳しい選考会でした。それはおそらく、この展覧会の存在意義を象徴する「Vision」という言葉の主体、つまり、「誰」の網膜に、この時代の「明暗」が映し出されているのか、不意なる問いとして、考えさせられたということでもありました。
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