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VOCA展選考委員「VOCA展2006」選考所感

選考委員長高階秀爾(たかしなしゅうじ)(大原美術館館長)
今回のVOCA展は、これまでと比べて作風の多様性が際立っており、出来栄えもよく、粒よりの作品が揃ったという印象が強い。VOCA賞を得た小西真奈の「キンカザン1 キンカザン2」は、透明な光の中の風景を主題としているが、単なる現実再現ではなく、優れた描写力による明るい自然の姿の中に、どこか白昼夢のような不穏な雰囲気を漂わせた秀作である。奨励賞の佐伯洋江の作品は、緻密な線描によるモティーフ表現と余白の多い空間構成が絵画のあり方について新しい問題提起を見せており、Robert Plattは現代的なイメージを組み合わせて素材の質感を生かした新鮮な画面を生み出している。日本画の持つ伝統的特性を清新な感覚で受け継いでいる兼未希恵と、絵具や樹脂などの素材の特質を生かした鮮やかな絵画空間を創り出した高木紗恵子の二人の佳作賞作家の登場も今回の喜ばしい収穫と言ってよいであろう。

酒井忠康(さかいただやす)(世田谷美術館館長)
いずれの出品作も、どことなく軽めだ。予測のつかない不安な時代を反映しているような感じだ。時代が深刻であるのにもかかわらず、どこか逃避的であるのはなぜなのか―そこのところを作家たちは、尋ねているような気がするが、はっきりとした解答とはなっていない。

建畠晢(たてはたあきら)(国立国際美術館館長)
絵画の最も今日的な断面が集約されているというVOCA展ならではの性格を、今回は従来以上に鮮明に示しているように思う。受賞作品の傾向は、一見、まちまちな方向にあるが、考えようによっては、デジタル・イメージの時代、映像文化の時代への、画家たちの対応(場合によってはアンビバレントな)を通底させているのである。ある意味でのあいまいさ、一義的に規定できないアトモスフィアが共有されているといってもよいだろう。

本江邦夫(もとえくにお)(多摩美術大学教授・府中市美術館館長)
昨年と同様、全体的に低調だった。その結果、無難なもの、完成度の高いものに票が集まったように思う。今日の、あるべき絵画に対する先鋭な視点が希薄な結果、因習的な表現に満足するか、いかにも奇をてらう感じになっているものが多い。大賞の小西さんはまさにそつのない、総合点の高い作品。私見としては、佐伯さん、高木さんに問題意識と今後の可能性を感じる。

松井みどり(まついみどり)(美術評論家)
今年のVOCA推薦作品は、一つの傾向に捕らわれることなく、作家自身のビジョンを追求した個性的な作品が多かった。具象作品が数の上では勝っていたが、その傾向は、写実的なものから、新表現主義的なもの、デジタル処理に近い細密描写を手書きで実現したものから、日本画のような装飾的でデザイン性の高い画面構成を持つもの、写真でありつつ抽象絵画の筆跡のような効果を出しているものなど、それぞれの工夫や挑戦が感じられて爽やかだった。作家の年齢が、70年代から80年代生まれと若返っていたことも、全体的な新鮮さの印象と関係があったかもしれない。選考会は、昨年ほど票が分れることなく、グランプリの小西さんに圧倒的な支持が集まった。小西さんの作品は、技術の洗練はもとより、明るい色を使っているのにどこか冷やりとした不穏な雰囲気を持っていて、魅力的だった。奨励賞のプラットさんは、ラメを散りばめたようなちらつき効果、佐伯さんは細密な筆致で、ごく遅い速度で動いている生物のいるような空間を感じさせて興味深かった。

南雄介(みなみゆうすけ)(国立新美術館設立準備室主任研究官)
ゲスト選考委員として、今回初めて選考に参加させていただいたが、強く感じたのは、「平面作品」というこの展覧会の枠組みが今までになく有効性を持つようになってきているのではないかということだ。作家のバックグラウンドや用いるメディウムの差異を越えて、デジタル・イメージが浸透した時代を前提とした視覚性を感じさせる作品が多いという印象を持った。自分自身の問題意識を真摯に追求している作家が多く、楽しく選考を行うことができたと思う。時代のショーケースとしての機能を十分に果たす展覧会になっているのではないだろうか。



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